言語力を身につける意味

言語力には「言語処理能力」と「言語化能力」の2つがあります。

言語処理能力とは、イメージを言語つまり言葉で意味のある情報として理解する能力のことです。

言語化能力とは、自分の中のイメージを言語つまり言葉で論理的に表現・説明する能力のことです。

この2つを「言語力」といい、人間は「言語」がないと「思う」ことすらできません。


幼児の思考は、イメージが優先する「直観的思考」が優位とされます。しかし、論理的に思考する機会がなければ直観的思考が優位のまま大人になります。事実、人間が日常生活で論理的思考を使う機会はほとんどないといわれ、約98パーセントは直感的になんとなく物事を決めているとされています。直感的思考を別の言い方で説明すると「前置きや推論がなく、無意識に結論を出す思考」といえます。つまり、いいなぁ~と感じると「鵜呑みにする」思考です。

子どもが幼児から児童へと成長する過程で、次第に「具体的思考」を使えるようになって行くと言われています。例えば「お菓子が食べたい」から「グミが食べたい」というような変化です。

これくらいの会話は、どの子どもも3才くらいまでに出来るようになります。そして「水をちょうだい」と子どもが要求してきたとします。それに対して「どうして?」と理由を問い、子どもが「お花にお水をあげたいから」と理由が言えたとします。問いを言語処理し、理由を言語化できることを「論理的思考」といいます。

論理的思考は、コミュニケーションが必要となるシーンでは必要不可欠になってきます。物事の善悪や幼稚園・保育園のルールもイメージ優位の直観的思考では理解することは難しく、具体的な事例を論理的に理解するためには、論理的思考がどうしても必要になります。そして、論理的思考は「言語力」なしでは成り立ちません。


脳科学では「12才頃から自然に論理的思考ができるようになる」と定義しています。一方、人間の脳は4~6才で大人の約95%が完成します。では、脳がほとんど出来上がった後に、12才を過ぎるまで待てば自然と論理的思考ができるようになるのでしょうか。


自然に任せて、できるようになるまで子どもを見守るのも親の選択です。

できるようになる環境を子どもに与えるのも親の選択です。


勉強もスポーツも、そして音楽やアートのような芸術も、言語力が弱いとうまく習得できません。

例えば、少年野球チームにお子さんが入ったとします。

コーチは、野球初心者の子どもに〝ボールの投げ方〟や〝グローブの使い方〟などを身振りだけでなく「言葉」を添えて目の前で実演しながら指導していきます。身体能力の差こそあれ、誰もがはじめて取り組むことであればコーチの真似をするのに必死なことでしょう。ところが、しばらくすると上手な子とそうでない子に分かれていきます。なぜでしょう…。

コーチと同じように動こうとしても、グラウンドには自分の動きを確認できる鏡などはありません。子どもは自分の動きを自分で確かめることができないのですが、上手な子にはそれができて、そうでない子はちぐはぐな動きのままです。

コーチは、身振りだけでなく「言葉」を添えて実演指導するのですが、上手な子にはコーチの言葉が届き理解できて、そうでない子には言葉が届かず理解できていないのです。届かないとは、聞こえていても理解できていないということなのです。


イメージと言語が結びつき意味のある情報として理解できなければ「脳」は混乱し始めます。脳が混乱しながらも、なんとか情報を処理できたとしても、その情報を言語化できなければイメージの再現性は低くなります。1・2・3とカウントしながら動きを覚えることも、数字という人工言語を用いた言語化能力を使ったイメージの再現なのです。論理的思考は、なりたい自分になるために必要な能力なのです。


言葉がなければ、なにひとつ「思う」ことすらできないのが人間です。

では、言語力(=言語処理能力と言語化能力)は、どのようにすれば身につくのでしょうか。

脳がもっとも成長する幼児期の子どもが、言語力を高める環境で育つと言語処理能力と言語化能力は高くなります。

一方、そういう環境にいないとイメージが常に優位となって「意味のない言葉の暗記」で乗りきる子どもに育ってしまいます。現在、16歳までの男女78%が「100文字未満の文章を正しく理解できていない」という調査結果があります。(国立情報学研究所)


親子での会話、友達とのコミュニケーションにおいて何ら問題がないから大丈夫、言語力を高める国語を学ぶのは小学校からで大丈夫、普通に喋れているのだから心配ないし大丈夫、と思い込んでいる大人が多いのも事実です。

では「お釣りの計算ができれば、それ以上の計算力なんて必要ない」と考える人がどれだけいるでしょうか?

学力の「質」の低下は、実は「言語力(=言語処理能力と言語化能力)」の低下であると指摘するのは、人工知能(AI)研究の分野で『AIvs 教科書が読めない子どもたち』の著者、新井紀子教授(国立情報科学研究科)です。


言語力を身につける。その意味は、子どもの学力だけではなく「なりたい自分」に子ども自身の力で、子ども自身が成長してゆくために必要な力だからです。


みらい塾(みらい学習教室)代表 杉本和功